通販系のトランザクショナルクエリの検索結果には、その分野における人気の高いショップから順にリストされます。このためECサイトのSEOでは、肯定的な評判と人気を得ていくことが要件となります。この記事では、それらの要件とその対応方法について、Google検索品質評価ガイドラインをもとに解説します。
目次
ECサイトのSEOの概要
ECサイトのSEOの要件は、他のタイプのサイトとはかなり異なります。この記事では、Google検索品質評価ガイドラインの2022年12月版[1]に記載されている内容の解説を中心としながら、中小ECサイトに特化して、SEOの要件と、それを満たすためにやるべきことをまとめます。
ECの検索順位は人気順
ECサイトのSEOは、情報サイトのSEOとは大きく異なります。この違いは、検索意図の違いと、それによりよく答えるコンテンツの違いからくるものです。情報を探すインフォメーショナルクエリの検索結果は質問の答えとして適切なものから順に並びますが、商品を探すトランザクショナルクエリの検索結果は人気のショップから順に並びます。
実際に「ホワイトボード 通販」や「スカート 通販」などと検索してみれば明らかですが、通販系のトランザクショナルクエリの検索結果の上位には、その分野の人気ショップのページが並びます。このような検索結果が定着したのは2016年頃から2017年頃にかけてで、その頃に次のようなことが実現したと考えられています。
- 被リンクやサイテーションや各種レビューなどのデータを用いて、AIがネット上で評判のよいショップ(≒多くの人が信頼しているショップ)を上位にリストする。
- 匿名化して収集したユーザーの検索行動データを機械学習を通じて検索結果に反映し、実際のユーザーによく利用されているショップ(≒多くの人に選ばれているショップ)を上位に表示する。
こうしたことからECサイトのSEOでは、評判と人気を高めていくことが施策の中心となります。安心して買い物できるようにページを作り込み、顧客を中心とした外部に働きかけてSNS投稿やレビューを増やし、評判と人気を高めていきます。ネット上で顧客自身に発言してもらうことが大切なのです。
テクニカルSEOの制限
中小ECサイトの多くはページ生成機能を備えたASPカートシステムを利用して制作されています。ASPカートシステムはショップ運営のための便利な機能が一通り揃っていて、システムをメンテナンスする必要もなく、非常に使い勝手がよい一方で、システム上の制限からテクニカルSEOのベストプラクティス[2]のすべてには対応できません。
こうした事情から、中小ECサイトではテクニカルSEOは可能な範囲(一般的には十分なものです)にとどめざるを得ず、オンページSEOはページの作り込みを中心に実施していくことになります。それ以外の施策は、サイト外部での評判の構築や、被リンクの構築、そして知名度の向上のようなオフページSEOが中心です。
テクニカルSEOに制限があるためページの作り込みとオフページSEOに注力せざるを得ないというこの事情は、結果的には良い方向に働きます。検索結果が人気順になるECの世界のSEOでは、人気と評判を高めるための施策が効果を発揮しますし、そのためにできることはページの品質を高めるための作り込みと、オフページSEOだからです。
メインコンテンツの品質
Google検索品質評価ガイドラインの「3.2 メインコンテンツの品質」によれば、メインコンテンツの品質は、その「ページの目的をどれほど達成しやすいか」と「ページが提供するユーザー体験の満足度はどれほどか」ということで測られます(下の画像の下線部分を参照)。

ECサイトの場合であれば、ページの目的はユーザーが商品を購入できるようにすることですから、ECサイトにおける商品ページの品質基準は「どれだけスムーズに安心して買物ができるか」であると言ってよいでしょう。商品の購入がしやすく、その体験がスムーズで不安のないものであれば、商品ページは高い品質を備えていると評価できます。
メインコンテンツの品質は、コンテンツ作成に費やされた労力、コンテンツのオリジナリティ、コンテンツ作成に使われた才能やスキルによって判断できるといいます(下の画像の下線部分を参照)。また特に、情報ページとYMYLトピックのページでは、内容の正確さと、専門家によって確立されているコンセンサスと一致していることが重要です。

ECサイトのコンテンツには、労力、オリジナリティ、正確性が重要です。というのも、才能やスキルは主として芸術分野のコンテンツに必要なものとされているからです。ただしガイドラインでは触れられていませんが、商品ページにおいても、商品写真の撮影や加工、図版の作成などにおいて、才能やスキルは必要であると筆者は考えます。
利用者の満足のために費やされた労力
労力とは、満足のいくコンテンツを作るために人間が費やした積極的な貢献のことを言います。ここでわざわざ「人間が費やした」としているのは、AIなどを使用した自動化との対比であると考えられます。利用者の満足や利便性を向上することを目的に、実際の人間が労力を費やすことが評価されるのです。

上記の記述の中で特徴的なのは、ソーシャルメディアやフォーラムでの参加者の発言もまた「人間が費やした貢献」に相当することがある、としていることです。ページの品質を向上させる努力はサイト運営者だけのものではなく、参加者が費やした貢献や労力が追加されることもあるという考え方は極めて重要です。
参加者の貢献は、ECサイトにおいてはソーシャルメディアへの投稿やカスタマーレビューの形で現れます。以下の画像の下線部分では、大量の有用な製品情報を提供することだけでなく、600ものユーザーレビューが掲載されていることでも、労力とオリジナリティを提供しているとして評価しています。

もちろん、商品ページの作り込みは運営者が示すことができる最も基本的な労力の表現です。具体的で詳しい商品説明や、美しくわかりやすい写真や動画など、工夫を凝らし、労力を費やして商品ページを作り込むことは重要です。反面、製造元から提供された説明文や写真をそのまま使うだけでは、高く評価することは困難です。

コンテンツと商品のオリジナリティ
オリジナリティとは、他のサイトにはない独自のコンテンツが掲載されていることを言います。他のサイトにあるコンテンツのコピーではオリジナルと認められないことはもちろんですが、他のサイトのコンテンツの焼き直しもまた、オリジナルとは認められません。また、他のサイトにも似たコンテンツがある場合、オリジナルの情報源を評価します。

またECサイトにおいては、他店で扱っていない商品を販売していることがオリジナリティとみなされます(以下の3点の画像の下線部分をそれぞれ参照)。商品がオリジナルであれば、その商品説明もオリジナルのものとなり、結果としてそのページ全体がオリジナリティの高いものとなり、これが高く評価されます。



そのサイトが持つオリジナリティをそのサイトの存在意義と読み替えれば、他のショップにはない商品を扱っているECサイトが評価されることは当然でしょう。どこでも買える商品を寄せ集めただけのショップに存在意義を認めることは困難です。中小ECサイトにおいては特に、取扱商品のオリジナリティは重要な要件のひとつです。
ページ上で提供する情報の正確性
コンテンツの正確性が特に重視されるのは、情報ページと、YMYLトピックを扱っているページです。情報ページはECサイトにもありますし、ECサイトはお金を扱うため、すべてのECサイトは中程度かそれ以上のYMYLトピックであると考えられます。このためECサイトに掲載する情報は正確を期しておく必要があります。

ただし、専門家の間でコンセンサスのとれているエビデンスを示す(上の画像の下線部分)ところまでやる必要があるのは、健康や医療に関わる商品を扱っており、具体的な病名や症状名に言及する場合だけでしょう。消費財など通常の商品を販売するだけであれば、間違いがないように複数名でよくチェックするだけで十分です。
E-E-A-Tの達成度
ECサイトにおけるE-E-A-Tでは、最初のE(Experience:生活者としての経験)はそれほど重要ではなく、従来のE-A-T(E: Expertise 専門性、A: Authoritative 権威性、T: Trust 信頼)が重視されます。専門性では取扱商品についての専門知識が問われ、権威性や信頼では肯定的な評判や知名度がシグナルになるところがECサイトの特長です。
専門性(商品と商品知識の専門性)
E-E-A-Tにおける専門性は、専門知識や専門技能に優れていることを意味します。ECサイトではそれに加えて、自社のオリジナル製品を販売していることが評価されます。販売者は自社のオリジナル製品について細部まで熟知していて、また、その製品情報を外部に発信していることが多いからです。
下の画像では、子供用の最高級家具と小物というニッチな分野で店舗独自のシリーズを展開している店舗が紹介されており、そのようなニッチに特化した製品群についての高い専門性が評価されています。このサイトで販売されている商品の多くはこの会社に独自のものとなっており、それがこのサイトの専門性を高めています。

下の画像で紹介されている店舗では、最高の品質と最高の人気を持つオリジナルの通学用リュックサックを扱っており、その製造元および販売者として高い専門性が評価されています。単に自社のオリジナル製品についての専門性が評価されているだけでなく、その製品が品質と人気で知られていることが最高評価の要因です。

権威性(評判と知名度の高さ)
ECサイトにおける権威性は通常のサイトの権威性と同様に、引用元としての信頼性と、肯定的な評判や知名度が評価されます。以下の画像の店舗はアウトドア用品メーカーの L.L.Bean[3] であり、自社開発の商品を卸している関係から、ウェブサイトは引用における出典として各所で利用されており、この事実がサイトの権威性を高めています。

また、ECサイトの権威性(と信頼性)を示す重要なシグナルは評判(レピュテーション)と知名度です。物品の販売においては、有名であり肯定的な評判があることは、多くの利用者に信頼されていることを示すからです。以下の3つの画像の下線部分が示すように、Googleが高く評価するサイトには肯定的な評判が欠かせません。



そのサイトについて肯定的な評判があるかどうかは、そのサイトの外部でどのように評価されているかが検討の対象です。しかし、詳細で信頼性の高いカスタマーレビューが大量にある場合には、サイト上に掲載されたカスタマーレビューも肯定的な評判の根拠として扱われることもあります(下の画像の下線部分を参照)。

信頼(連絡窓口とサポート情報の充実)
E-E-A-Tにおける信頼は通常、専門性や権威性の結果としてもたらされます。ECサイトの場合はこれに加えて、連絡窓口やサポート情報も重要です。ECサイトのユーザーには、疑問を解消したり問題を解決するための方法が必要だからです。特にECサイトでは、決済、交換、返品などの連絡窓口が必要です(下の画像の下線部を参照)。

また、以下の画像の下線部分が示すように、サポート窓口の情報が不足しているECサイトは、商品の販売というサイトの目的に照らして、信頼できるものではありません。サイトにこうした信頼の欠如があった場合、他の要因によって取り返せるものではなく、常にそのサイトは低い評価を受けます。

以下の画像の下線部分にあるように、詳細なサポート情報やサポート窓口が提供されていれば、そのことが高い信頼につながります。ECサイトの信頼性を高めるためには、専門性や評判に加えて、詳細なサポート情報や、サポート窓口の充実が必要とされるのです。

ECサイトのSEO施策
ここまでの内容をふまえ、ECサイトに特有のSEOの施策をまとめます。以下の各項のうち、1から3はすべてのECサイトで実施すべきことです。このうち1と2はできていて当然の最低限の要件ですが、それらは3ができていなければ意味を持ちません。Googleは評判を非常に重視します。また、4および5は可能であれば実施したいことです。
- 独自の情報を充実させる – メーカーから提供された商品情報の他に、詳細で独自の商品情報を充実させる。商品情報の他にも、決済や配送、返品、返金に関する情報や、メンテナンスやトラブルシューティングの方法など、詳細なサポート情報を提供する。
- 情報の正確性を高める – サイト内のすべての情報について正確性を担保する。必要に応じて専門家に監修を依頼することも検討する。また特にYMYLトピックについては、専門家によるコンセンサスのとれた根拠に参照リンクを貼ることを徹底する。
- 肯定的な評判を広める – リスティング広告を併用するなどして顧客数を増やし、同梱物やメルマガなどを利用してクチコミや被リンクの増加を狙う。顧客によるSNS投稿やサイト内外でのレビューを増やすとともに、アフィリエイト広告を活用して言及の量を増やす。
- ニッチな分野でトップのブランドを目指す – 自社の専門性を最大限に活かせる特定の分野に特化し、そこでトップの知名度と評判の獲得を目指す。第一想起(消費者が一番最初に思い出すブランド)になるための活動を優先する。
- オリジナル商品を製造する – 製造者や生産者ではない場合でも、OEM生産などを利用してオリジナル商品を開発・生産し、販売する。開発元として商品情報やサポート情報を丁寧で積極的に発信することで権威性を獲得する。
上記を実施してもまだ余裕がある場合には、通常の商用サイトのSEOと同様のコンテンツ施策を実施するのもいいでしょう。ただしコンテンツ施策を実施する場合でも、その重要な目的のひとつは被リンクや評判の構築、知名度の向上であることを忘れないでください。自身や自店の専門性のアピールにつながるコンテンツ作りを心がけましょう。
まとめ
中小のショップにとって自社ECサイトのSEOは非常に難しいのが現実です。クチコミが拡がりやすく肯定的な評判を高めやすいといった、SEOで勝ちやすい特色を持った商材でない限り、大手ショップと真正面から張り合うことは現実的ではありません。そうした特色がない場合、ニッチを狙い、ロングテールのキーワードを着実に狙いましょう。
また、肯定的な評判を集めるための施策は休むことなく続ける必要があります。有効な施策は、同梱物やメルマガを使ってレビュー投稿をお願いしたり、SNS投稿をお願いするハッシュタグキャンペーンを実施したり、話題を提供するソーシャルメディア最適化に取り組んだり、アフィリエイト広告を運用することです。もちろん被リンク構築は最優先課題です。
どんな有名ショップでも、スタート時には無名でした。そこからリピーターを増やし、クチコミを増やし、知名度を向上させ、良好な評判を築いていった結果として、今の姿があります。どんなショップもそうした取り組みを避けて通ることはできません。やるべきことはこの記事で紹介しました。あとは進めていくだけです。頑張っていきましょう。