生成AIがユーザーの質問に直接答えるゼロクリック検索が主流となった現在、コンテンツ制作を中心としたSEOの費用対効果は悪化の一途です。これからのSEOでは、AIから「名指しで推薦される」本物のブランドを築く必要があります。これは外注に任せられるものではありません。社長自らが取り組むことで、勝ちが見えてきます。
SEOが終了するとき
数年ごとに終了したと言われてはしぶとく生き残ってきたSEOですが、AI検索は確実にSEOの主要な部分を終了させることになるでしょう。とはいえ、人々が情報を探索しなくなることはありません。また、どんな手段であれ人々が情報を検索する限り、その検索結果に介入することは可能です。よく言われるように「SEOは進化する」のです。
しかしSEOが終了するときは「検索結果に介入できなくなるとき」ではありません。もっと単純です。SEOが終了するときは「費用対効果が合わなくなるとき」です。SEOに投下する手間や金銭などのコストとSEOで得られる結果とを突き合わせたとき、投下するコストが上回り得られる結果が十分でなくなれば、それがSEOが終わるときです。
現在もまだ多くのSEO会社が、一般的な知識を提供するコンテンツを使ったコンテンツSEOを提供しています。しかしこれは現時点ですでに費用対効果が合わなくなっているはずです。また、今後のSEOの取り組みを考えるとき、SEOを外注することそのものの費用対効果も厳しくなっている現状があります。順を追って見ていきましょう。
AI検索結果でユーザーは「答えそのもの」を見る
検索エンジンが普及して以来の長い間、ユーザーは検索結果ページで「質問に対する答えが掲載されているかもしれないウェブページへのリンクのリスト」を見ていました。しかし現在のユーザーは、AIが生成する「質問の答えそのもの」を見ており、検索結果画面の中だけで検索を終えます。いわゆる「ゼロクリック検索」です。
Google検索の「AIによる概要」は生成AIを活用して、検索者の質問の答えとなる情報の要約を表示する機能です1。アメリカの成人900人の2025年3月の閲覧データを対象とした調査2では、このAIによる概要を見たユーザーのうち、従来の検索結果をクリックしてリンク先を訪れたのはわずか8%にとどまったといいます。
「これからはAIに引用されることが重要だ」という主張を目にすることもあります。しかしAIに引用されたら何だというのでしょうか? 先の調査によれば、AIによる概要エリアの引用元へのリンクをクリックした人は1%だったといいます。この結果が示していることは「AIによる概要の引用元を気にする人はほとんどいない」ということです。
どんなにコンテンツ品質を高めたり検索意図を掘り下げたとしても、言葉の意味を知りたい、何かのやり方を知りたい、といったインフォメーショナルな意図での検索では、AIによる概要が表示されてゼロクリック検索になります。コンテンツSEOは死んだのです。
AIによる概要が表示されるクエリは急速に拡大しています。そう遠くないうちに、ほぼすべてのインフォメーショナル・クエリでAIによる概要が表示されるようになるでしょう。そうなれば知識提供コンテンツを制作することそのものが無駄になります。一般的な知識を提供するコンテンツは生成AIの養分になるだけで、集客効果がなくなるからです。
今後も知識提供型のコンテンツを作り続ける意味があるのは「買い手に一定以上の知識を要求する商品」を扱っている場合に限られるでしょう。たとえば税理士や建築士などは、従来のような集客効果は望めなくても情報コンテンツを配信する意味があります。一方で、ラーメン店や美容院では継続的な情報コンテンツの発信はそもそも不要でしょう。本業の評判を高めるほうがずっと効果的です。
検索ジャーニーそのものが変化している
AI検索によってユーザーの検索ジャーニーは変化しました。従来の検索を使っていたときの私たちは、情報探索の過程で大量のウェブページを訪問していました。従来の検索ジャーニーは単純化すれば下記のリストのようなものです。ユーザーはこの「2」の段階で、様々な事業者の様々なウェブページを訪問していました。
- 課題の存在に気づく
- 課題そのものやその解決策について検索を繰り返して様々なサイトを訪れる
- 様々な解決策の中から有望なものを選択し、購入する
事業者側からすれば、ユーザーが検索を繰り返している上記「2」の段階が、ユーザーとの接点を作る大きなチャンスでした。しかしこのチャンスはゼロクリック検索で失われました。AI検索時代の新しい検索ジャーニーでは、ユーザーは多くのウェブページを訪問することはありません。AI検索時代の新しい検索ジャーニーは次のようなものです。
- 課題の存在に気づく
- 課題そのものやその解決策について調べるうちに評判のよい特定のブランドを知る
- そのブランド名で指名検索してサイトを訪れ、解決策を購入する
AI検索時代の新しい検索ジャーニーでは、検索結果をクリックするのは最後の「3」だけである可能性もあり得ます。少々極端な意見であることは承知していますが、今後は「クリックされる検索は指名検索だけ」という意識で取り組むのがいいでしょう。人々やAIからおすすめされる状況を作っていくのです。
これからのSEOはAIにおすすめされる取り組み
AI時代のSEOは、AIが自社のブランドをおすすめする状況を作る取り組みです。ユーザーがAIにおすすめの業者やおすすめの商品を質問したとき、AIが生成する回答に自社や自社の商品を含めてもらえるように働きかけます。そのためにやるべきことはかなり明確になってきており、およそ次のようなものです。
- ブランドの知名度を向上する —— 利用者を増やすことにまさる知名度向上策はありません。多くの人に使ってもらい、多くの人に愛着を持ってもらうために、まずは多く売ることです。オンラインとオフラインの広告が有効です。
- 多くの人にブランドを話題にしてもらう —— 利用者がクチコミやレビューを投稿したり、SNSやブログで紹介したくなる仕掛けを施します。商品に話題性を持たせたり、キャンペーンやコンテスト、アフィリエイト広告の活用も有効です。
- 権威あるメディアでブランドに言及してもらう —— ニュースとしての報道価値のある話題を作ってプレスリリースを配信し、パブリシティを獲得します。新製品発表のほか、イベントの開催や、コンテストでの入選などが有効です。
- 地域や業界の有力サイトからリンクしてもらう —— リンクはウェブをウェブたらしめる基礎的な技術であり、その重要性は依然として高いままです。地域の商工会や自治会、業界団体などからリンクしてもらうことは有効です。
注目すべきは、これらの取り組みがすべて、外部の人々への働きかけであることです。このような仕事は、大企業なら広報部や渉外部やマーケティング部といった形で複数の部署にまたがる大がかりな仕事です。一方、中小企業の多くは広報部や渉外部など持っていないかわりに、社長が全体を見通すことができます。社長が中心となって取り組みましょう。
検索エンジンやAIは、多くの人が話題にしているブランドや、権威あるメディアで言及されたブランドのような、本物のブランドを優遇します。検索エンジンやAIは人々を見て、人々が高く評価したものを高く評価する仕組みで動いています。企業側からの一方的な情報発信よりも、第三者からの評判を引き出すことに主眼を置きましょう。
検索エンジンやAIは、サイト運営者が自画自賛していることよりも、外部の第三者による言及のほうをより信頼します。お客様や、地域の人々や、業界の人々、そして大手メディアに話題にしてもらえるように働きかけましょう。それが本物のブランドの証明になります。
ブランドといっても、高級ブランドや有名ブランドを目指す必要はありません。中小企業なら専門特化か地域密着で存在感を高められます。特定の狭い業種の中で注目される存在になるか、特定の狭い地域の中で注目される存在になるか、またはその両方です。欲張らずに対象の範囲を決めて取り組んでいけば、その対象にとってのブランドになれます。
外注するSEOが終了し、内製するSEOへ
従来のSEOでは、安価に外注して成果物を受け取る形で効率的に進めることができました。成果物とは、最適化されたウェブサイトのデータや、外部サイトからのリンクや、キーワードに最適化されたコンテンツなどです。しかし今後は外注は困難です。これからのSEOは「費用を払って成果物を受け取る」形ではないからです。
前項で述べたように、これからのSEOで実施していくことはブランディングであり、地域や業界でのあなたやあなたの会社の存在感を高めていく取り組みです。具体的には、より多くの販売、お客様に話題にしてもらう仕掛け、パブリシティ、地域や業界での付き合いなどです。これらは人間関係に立脚したものであるため外注が難しいのです。
個人的には、大きな外注予算を持つ大手から中堅企業が常に優位に立っていた過去の状況よりも、創意工夫と努力によって中小零細企業や個人事業者でも何とか戦える現在の状況のほうがずっといいと思っています。
中小企業のブランディングは、ほぼすべては社長の働きにかかっています。得意客との深い関係づくりや、地域や業界の付き合いごと、マスコミ対応などは、社員には難しく、いわんや外部の支援会社が代行できることではありません。しかし社長が率先して取り組むことで、着実に効果を積み上げていくことができます。
まとめ
AI検索とゼロクリック検索の影響を受けて、従来のSEOの費用対効果は急激に悪化しています。しかしこれはあらかじめ予期できていたことです。検索結果のクリック率が低下し始めたのは、強調スニペットが導入された2014年3からです。Google検索はその頃から、検索結果画面でユーザーの質問に答えることを指向していました。
チャットボットの利用なども含め、ゼロクリック検索は今後も増え続けるでしょう。クリックされる検索はナビゲーショナルな意図の指名検索だけと考え、ユーザーがそこに至る道筋を設計し、整備していくことがこれからのSEOです。自社サイト内の調整よりも、お客様や地域の人々や同業者などとの関係構築に重点を移しましょう。
自分の宣伝になりますが僕は、関係構築や広報も含めた新しいSEOに取り組もうとする中小企業の相談に応じる安価なサービスを2020年から提供しており、多くの社長さんや個人事業主さんに喜ばれています。サービス開始当初は「まだ時期尚早すぎたか」と思ったものですが、やっと時代が追いついてくれたのかもしれません。
内製でSEOに取り組む事業者さんだけでなく、従来のコンテンツ主導のSEOを提供してきたSEO会社さんやライターさんなども、次の展開をよく考えるときです。これまで通りのSEOでは、かける費用に見合う効果を出すことはまず不可能です。この記事を読んだ方が、これからの事業をうまく展開できる方策にシフトできることを願っています。