PCやスマートフォン、タブレット端末などのインターネットに接続された端末が普及したことを受けて、人々が購買にいたる道程は大きく変化しました。下調べに使う情報ソースは多様になり、決定する場所や時間も変わりました。こうした背景をもとに生まれた新しい購買行動モデルを、GoogleはZMOT – Zero Moment of Truth と呼んでいます。
目次
ZMOTとは何か
ZMOT、または Zero Moment of Truth とは、2011年にGoogleが提唱した購買行動に関する概念です。PCやスマートフォン、タブレット端末などの普及を受けて消費者の購入意思決定プロセスは大きく変化しましたが、この新しい消費者購入意思決定プロセスを概念としてまとめたものがZMOTです。
- 前提
- ネットが身近になった現在の人々は、店に足を運ぶ前の時点ですでに、ネットでの下調べを通じて意思決定を済ませることが多くなっている。
- ZMOTとは
- 店に足を運ぶ前の下調べにおいて起きる意思決定の瞬間(Moment of Truth:真実の瞬間)のことをZMOTという。
このZMOTは新しい消費者購入意思決定プロセスですが、その前提となったプロセスモデルの存在を無視することはできません。次に紹介するのが、前提となったFMOTです。
前提となった購入意思決定モデル「FMOT」
FMOT、First Momet of Truth(最初の真実の瞬間)とは、前提といいながらマーケティングの概念としては比較的新しい部類に入るもので、2004年に米P&G社によって提唱されたものです。P&Gは同年から本社にFMOT部を新設し、TVCMの予算を削減してまでFMOTを推進しています。
- 前提
- TVCMなどで認知度を高める取り組みは依然として重要だが、消費者動向調査の結果、実際の消費者は店舗で目的の商品が並んだ陳列棚を見て、最初の3秒から7秒でどの商品を買うかを決めていることが多いことがわかった
- FMOTとは
- 消費者が店頭で商品を選択する瞬間(真実の瞬間)のことをFMOTという
FMOTは、店舗での実際の消費者の行動を調査することを通じて、店頭で商品を選ぶ消費者の目線で行われることに特徴があり、商品のパッケージデザイン、陳列棚におけるディスプレイ、店員の説明や接客、ポップなどを含むインストアプロモーションなどを最適化していく取り組みです。
上の図はFMOTの消費者購入意思決定プロセスを表したものです。このプロセスでは、消費者による審判には3回の真実の瞬間が存在し、販売者はこれらのすべてを勝ち抜く必要があることを示しています。
- Stimulus(きっかけ)
- 消費者が購買行動を起こすことになるきっかけとなる出来事。TVのCMや番組、友人との会話などのほかに、洗剤を切らしたこと(洗剤を購入するきっかけ)や、結婚が決まったこと(新しい家財道具を購入するきっかけ)なども含まれる
- FMOT(最初の真実の瞬間)
- 店頭の商品陳列棚で行われる意思決定。商品のパッケージを見ること、パンフレットを見ること、店員による説明、ポスター、試用などの情報ソースを元に、消費者は3〜7秒で購入する商品を決定する
- SMOT(第二の真実の瞬間・体験)
- Second Moment of Truth の略で「第二の真実の瞬間」の意味。商品を購入した消費者が、実際にその商品を使用し体験すること。この体験がまずいものだった場合、次からは選んでもらえない
P&Gでは消費者が製品(または製造者)を評価する機会は大きく2度あるとしており、1度目をFMOT(店頭)、2度目をSMOT(体験)としています。これはP&Gの消費者に対する考え方を反映しており、FMOTの時点の移り気な消費者をショッパー(買物客)、SMOTでファンになり次回もP&Gを選ぶ消費者をユーザー(利用客)と呼んで区別しています。
このFMOTの典型的なストーリーとは次のようなもので、この3ステップの購入意思決定モデルは、マーケティングにおけるモデルとして長く使われてきたものでもあります。
- きっかけ
- お父さんがプロ野球中継を見ていたらデジカメのCMが流れ「これは良さそうだな」と思う
- FMOT
- お父さんは行きつけの電気屋を訪れ、CMで見たのと同じデジカメの立派な立て看板を目にする。商品のパッケージも素晴らしい。若い店員はお父さんのすべての質問に答えてくれた。お父さんはそのデジカメを買った
- SMOT
- お父さんはデジカメを持ち帰り、子供の写真を撮る。写真はCMで見たのと同じように美しい。めでたしめでたし(たぶんお父さんは次回も同じメーカーの同じシリーズの製品を同じ店で買うだろう)
新しく追加された購入意思決定モデル「ZMOT」
ZMOTは、ここまで説明してきたFMOT(First Momet of Truth:最初の真実の瞬間)の前に起きる真実の瞬間という意味で、ZMOT(Zero Moment of Truth)と呼ばれています。
この記事の冒頭で、ZMOTを「店に足を運ぶ前の下調べにおいて起きる意思決定の瞬間(真実の瞬間)のこと」と説明しましたが、従来のモデルにZMOTが加わったからといって、FMOTやSMOTの重要性が失われたということではありません。それらは今も重要です。
さらに付け加えるなら、ZMOTは平たく言えば買い物前の下調べのことであり、その行動も以前から存在していました。ただし、入念な下調べが行われていたのは、車や電子機器や不動産のような高額商品に限られていました。
それが、PCやスマートフォン、タブレット端末などの普及を受けて、下調べはより気軽で身近なものになり、その対象はより低額な買い物にまで及ぶようになった、というのがZMOTが注目されている背景です。また、このサイトでZMOTを扱うのは、ZMOTはSEOやSMOと関係が深いからです。
ZMOTはどのように起こっているのか
現在では、FMOTプロセスにおける「きっかけ」と「FMOT」の間に、消費者による審判の瞬間がもう一つ追加されています。ZMOTです。これについて、先ほどFMOTの例で用いたのと同じ、プロ野球中継の観戦中に流れたデジカメのCMを例にストーリーを見てみましょう。
プロ野球の観戦中にデジカメのCMが流れた。お父さんはノートPCを開いて「デジカメ クチコミ」と検索し、カカクコムともう2つのサイトのコメントを見る。次にTwitterで「1万円以下で買えるいいデジカメってどれ?」とつぶやく。さらにYouTubeを開いて「デジカメ デモ」と検索する。そして、プロ野球中継が終わるよりも前に(もちろん店頭を訪れるよりも前に)、お父さんが買うべきデジカメは決まる。
これは店舗や一般消費財だけで起きる話ではなく、B2BやB2Cにおけるあらゆる製品やサービス、そして教育や政治の分野にまで広がっています。消費者のありとあらゆる意思決定の場において、あらゆる時、あらゆる場所で、それは起こっています。以下はその例です。
- ミニバンに乗った多忙なお母さん
- 息子を迎えに学校に行って、その待ち時間の間に気管支を拡張する鬱血除去薬について調べる
- デスクにいる管理職
- オフィスサプライ業者に連絡する前に、レーザープリンタの価格やインクカートリッジのコストを比較する
- 喫茶店で過ごしている学生
- ユーザーによるレビューをチェックしながら、バルセロナの格安ホテルを探す
- スキー用品店でのウインタースポーツ愛好者
- 最新のスノーボードの紹介ビデオを見て、その場で携帯電話を取り出す
- マンションの自室にいる若い女性
- 新しい男性との初めてのデートの前に、興味津々でその男性についての詳細をウェブで調べる
ZMOTの特徴をもう少し掘り下げてみます。次のリストは、ZMOTの性質を表したものです。
- それはオンラインで発生する。Googleや、Yahooや、YouTubeなどで検索することが、ZMOTの始まりの典型例だ
- それはリアルタイムで発生する。一日のどんな時間帯でも起きるだけでなく、外出中でも起きる。Googleのモバイル検索数は2010年だけで2倍になっている
- それは能動的な行動だ。消費者は、情報は他人から押しつけらるのではなく、むしろ自分が望んだ情報を自分で引き出すべきだと考えている
- それは情動的だ。消費者は自分を満足させることを望んでいて、それを実現するために情動的に行動する
- それは一対多の会話だ。マーケター、友人、見知らぬ人、ウェブサイト、専門家などのすべてが言葉を発し、消費者の興味を引きつけようと競っている
人々が接触しているZMOTについて、より詳しく見ていきましょう。次のリストは、ZMOTの代表的なソースを、利用された回数の多いものから順に並べたものです。人々がどんなソースからZMOTのための情報を得ているかがわかります。
- 検索エンジンを使ってオンラインで検索する
- その製品について友人や家族と会話する
- 製品に関するオンラインユーザーの評点を比較する
- 製品のレビューや推薦文をオンラインで読む
- 取扱業者や店舗のサイトから資料請求する
- その製品に関する記事や意見をオンラインで読む
- そのブランドのTwitterアカウントをフォローしたり、Facebookページにいいね!する
自社のZMOTを確認し、人々の質問を知る
ZMOTを自社のマーケティングに活かしていくためには、ZMOTにおける自社の位置づけを知る、つまり人々があなたの会社をどのように見ているかという現実を知る必要があります。まずは次の各項を試してみてください。
- Googleの検索窓に自社の製品名を入力してみましょう。入力し終わる前、オートコンプリート(キーワード補完機能)はどんなキーワードを自動で提案するでしょうか?
- それらの各検索において、あなたのサイトかメッセージは、検索結果の1ページ目の3番目以内に表示されたでしょうか?
- レビューサイトにおいて、あなたのブランドの評点や評価はどのようなものでしょうか?
- あなたがTVCMで使っているキャッチコピーで検索すると、どんなものが検索結果に表示されるでしょうか?
加えてさらに、次の3種類の検索を行います。
- 「自社のブランド名」
- 「自社のブランド名」+ 評判(またはクチコミ)
- 最強 +「自社商品のカテゴリ名」
ここまでの質問の答えおよび検索結果が示しているものこそが、人々が接しているZMOTにおけるあなたの会社の立ち位置です。ここで質問があります。
- あなたが見たものは満足のいくものでしたか?
- その同じものを見た消費者は、あなたの製品を買いたいと思うでしょうか?
- そもそも、消費者たちはあなたを見つけられるでしょうか?
人々の質問に答える
サーチコンソールを使えば、人々があなたのサイトを探すときに使用しているキーワードを知ることができます。また、キーワードツール1を使えば、求めている情報を検索するために人々が使用しているキーワードをより詳しく知ることができます。
こうしたキーワードは、消費者からの質問そのものです。その質問にきちんと答えているでしょうか? 次に示すのは、よくあるZMOTの誤りです。
よくある問題は例えば「ドッグフード 原材料」のような検索をしたときに見られる。検索結果に表示されたペットフード会社の広告は「ドッグフード 30% OFF!」という。さて、誰が値段について質問したんだ? 私の質問はそれじゃない。私はまだ探している情報にたどり着いていない。
これこそまさに典型的なZMOTの失敗だ。私は製品の詳細について調べているのに、「原材料に配慮する人なんていません、そんなことより 30%オフですよ!」という、私を買収しようとするかのようなリンクを返す。
ZMOTに向けて情報発信する
人々が製品やサービスについて質問する動機というのは、大まかには次の3点に集約されており、企業が答えるべきこともまた、検索者のこれらの動機に沿ったものである必要があります。
- それはお金の節約になる?
- それは時間の節約になる?
- それは人生を豊かにする?
ここで新たな課題となってくることは、ZMOTを自社の事業に活かすための、あらゆるチャネルを使った情報発信とコミュニケーションです。とりわけオンラインにおいては、次のそれぞれを消費者視点で調整し、消費者にとってより話題にしやすいものにする必要があります。
- ペイドメディア(Paid Media)
- PPC広告やディスプレイ広告、テレビCMや雑誌広告など、費用をかけて出稿するメディア。
- オウンドメディア(Owned Media)
- 自社所有のメディア。自社運営サイトの他に、走る広告塔であるコカコーラの輸送トラックや、商品のパッケージなどもこれに含まれる。
- アーンドメディア(Earnd Media)
- 評価され勝ち取ったメディア。各種の比較サイトやクチコミサイトに掲載された好意的なレビューや評点、消費者に支持され多くのいいね!を集めたFacebookページや多くのフォロワーを持つTwitterアカウントなどを含む。
- シェアードメディア(Shared Media)
- 消費者の意思で、消費者の自身によって共有されたメディア。個人のブログや、TwitterやFacebookの個人アカウントなど。ここで紹介されおすすめされることは、売り場そのものと同じように機能する。
上記は「トリプルメディア」としてよく知られている3点に「シェアードメディア」を加えた4点から構成されています。シェアードメディアは直接的に制御できないという意味でトリプルメディアとは異なる性質を持っていますが、ZMOTの主要な構成要素としてここに含められています。
上記の各メディアにおける情報発信とコミュニケーションを最適化していくにあたって、この記事をしめくくる質問となるのは次のものです。
- 自社のメッセージを消費者同士でやりとりしてもらうことに取り組んでいますか?
- 魅力的で共有可能なコンテンツを自分自身で作っていますか?
参考文献および注意事項
この記事は Jim Lecinski による「Winning the Zero Moment of Truth2」から抜粋した情報を元に再編成して作成しました。元のレポートには、各種の調査結果などこの記事で引用しなかったことが大量に含まれています。興味のある方は原文のほうをご一読することをおすすめします。